呼吸あってこその生命

私たちが生きていくために、本当になくてはならないもの、それが呼吸です。人間は食べ物や水がなくても、何日かは生きていられますが、呼吸をしないでいたら、数分くらいで死んでしまいます。

つまり、呼吸は、人間の活動の中でもっとも基盤となるものです。人間の一生は呼吸で始まり、呼吸で終わるといっても過言ではありません。この世に生まれ出た赤ん坊がまずやることが、産ぶ声をあげて息を吐くことであり、逆にこの世を去る人が最後にやることは息を引き取ることです。

ヨガはポーズで体を整え、瞑想法によって心を整えるといわれますが、その両方を結ぶ働きをするのが呼吸法です。自律と非自律の間、無意識と意識の間にあって、呼吸はそれらの橋渡しをするのです。

呼吸と自律神経

呼吸は、自律神経の働きの一つです。自律神経とは、意識しなくても自動的に行われる生命維持活動のことで、呼吸のほか、消化や血液循環、代謝などがこれに当たります。

自律神経が行う仕事は、自分の意志ではコントロールすることができないことばかりです。しかし、呼吸だけは例外です。呼吸は自分で深くしたり、浅くしたり、ゆっくりしたり、止めたりできます。

こうした呼吸の特性を生かして、ヨガでは、呼吸を通して自律神経に働きかけていきます。呼吸を深くゆっくり行うことで、自律神経をリラックスモードにしていくのです。

自律神経には「交感神経」と「副交感神経」の二つがあり、この二つがシーソーのように主役を入れ替わりながら、活動しています。交感神経はストレスを感じたときに優位になり、副交感神経はリラックスしたときに優位になります。この二つのバランスが整えられていることが、健康を維持するためにとても大切だとされます。

現代人は、日常的なストレスによって、交感神経が優位になりがちです。交感神経が優位だと血管が収縮され、体が冷えやすくなります。「冷えは万病の元」と言われているとおり、これは健康にとって良くありません。

そこで、ヨガは副交感神経を優位にさせるように導いていくのです。また、リラックス状態になったほうが、体が曲げやすくなるため、ヨガのポーズの効果が得られやすくなります。

呼吸とプラーナ

ヨガにおいて呼吸が重要視されるもう一つの理由は、プラーナにあります。

ヨガの哲学では、宇宙はアーカーシャ(空)とプラーナ(気、Prana)からできているといわれています。プラーナとは、大気のなかにある宇宙の根源的エネルギーです。

プラーナは、空気中に含まれているだけではなく、地球上の植物や動物のなかに、また無生物である鉱物のなかにも、そして、私たちの体の細胞の一つ一つのなかにも含まれています。私たちはそのエネルギーを受けて充電をしているのです。

プラーナは、体に入る息と出る息に含まれています。吸ったり吐いたりする息そのものがプラーナではなく、息を吸い込むエネルギーと息を吐き出すエネルギー、それがプラーナなのです。

ヨガで呼吸を整えることで、たくさんのプラーナを取り入れられるようになります。