ヨガは、心身に何らかの良い効果があるとして、2500年以上伝えられてきました。近年は、ヨガの効果を科学的・学術的な面から検証する作業が世界各地で進められています。ヨガや瞑想に関する最近の研究成果を紹介します。

呼吸法がうむ高い集中力

ヨガと言えば、その一番の基本が「呼吸法」です。ダブリン大学トリニティ・カレッジ(アイルランド国立)は2018年5月、ヨガなどで行われる呼吸法と、注意力・集中力の間に関係があるとの論文を発表しました。

ノルアドレナリンに作用

精神生理学の学術誌「サイコフィジオロジー」に掲載された同大学の研究発表によると、呼吸法を行うと脳内のノルアドレナリンが増減することが分かりました。

ノルアドレナリンとは、神経を興奮させる作用があるとされ、やる気や意欲を増幅し、注意力や集中力を高めると言われています。

呼吸をしている間の脳の動向を詳しく調べる実験をしたところ、ノルアドレナリンが存在する脳の「青斑核」(せいはんかく)は、息を吸うときに活発になり、息を吐くときに働きが静かになった、とのことです。

仕事の効率アップ

また、実験では、仕事で高い注意力を発揮する人は、呼吸とノルアドレナリンの分泌との連動性がより高いという傾向が見られました。これは、呼吸法を上手に使いこなせば、ノルアドレナリンをうまく調整でき、仕事の効率を高めることができることを示唆しています。

瞑想で心が落ち着く

ヨガのベースは何といっても瞑想です。瞑想は近年、科学的な研究がとても盛んになっているテーマの一つです。

カナダのウォータールー大学などの研究チームは2017年4月、瞑想をすると、不安心理が減って集中力が高められるとの研究結果を発表しました。

不安を抱えている人たち

本研究の実験には、何らかの心配事を抱えている82人の人たちが参加しました。 参加者の半分は10分間の瞑想をして、残り半分はテープで小説の朗読を聞き、その後、パソコンを使った仕事をしてもらいました。 その結果、瞑想をしたグループのほうが仕事で良い成果を出しました。

感情に引きずられなくなる

不安感を抱いていると、それにとらわれて仕事に集中できないことがあります。 そんなときに瞑想をすると、感情に引きずられている状態から解き放たれ、目の前にある仕事に意識を向けやすくなる、というわけです。

遺伝子を変える?!

もう一つ、インパクトのある研究が発表されています。それは、瞑想やヨガが私たちの遺伝子のレベルにまで影響を及ぼしうる、というものです。

英コベントリー大学などの研究チームが2017年6月、免疫学の専門誌「Frontiers in Immunology(フロンティアズ・イン・イムノロジー)」に発表しました。

研究の対象となったのは、ヨガや瞑想だけでなく、気功、太極拳など体と心の両方に働きかける健康法全般です。これらの健康法は、学術的に「Mind-body interventions」(MBI)という名称で括られる場合が多いです。

病気の原因となる物質

研究結果によると、MBIを実践すると、体内の「NF-κB」という物質の発生が減ることが分かりました。NF-κBとは、ストレスなどによって生まれるとされ、遺伝子に働きかけて細胞に炎症を引き起こすと言われています。老化や鬱(うつ)状態を促すと見られています。

アンチエイジングも

NF-κBが減少するということは、体と心の両面で健康にプラスになると考えられます。NF-κBは、がんを引き起こす可能性も指摘されており、生命にかかわるような病気の予防という面からも、注目に値する研究だといえます。

さらなる研究に期待

このほか、仏国立保健医学研究機構(Inserm)は2017年12月、瞑想によって高齢者の認知力が向上するとの研究成果を発表しました。瞑想が脳の老化防止に役立つ、ということです。

ヨガ・瞑想をめぐる研究は多岐にわたります。長年、経験や感覚で伝えられてきた効用が、科学的な検証を経て、より正確かつ詳細なものになっていくことが期待されます。

<ヨガや瞑想に関する学術研究の例>
発表時期 研究機関 発表内容
2018年5月 ダブリン大学トリニティ・カレッジ(アイルランド国立) 呼吸と注意力には関係がある。注意力の高い人は、呼吸に伴って脳内のノルアドレナリンが増減する。 また、ノルアドレナリンが存在する脳の青斑核(せいはんかく)は、息を吸うときに活発になり、息を吐くときに働きが静かになる。 掲載:学術誌「サイコフィジオロジー」
2017年12月 仏国立保健医学研究機構(Inserm) 65歳以上の人を対象にした研究で、瞑想は認知力を活性化させ、脳の老化防止に役立つ。
2017年6月 英コベントリー大学など 細胞に炎症を起こすとされる遺伝子レベルの物質が、ヨガや気功等の実践によって減少する。 フロンティアズ・イン・イムノロジー(Frontiers in Immunology)」に2017年6月16日に掲載
2017年4月 カナダのウォータールー大学など 1日10分の瞑想をすると、気持ちが落ち着いて仕事の集中力が高まる。 とくに不安な心理状態にある人には効果的。2017年4月に学術誌「Consciousness and Cognition(意識と認知)」に掲載