体でシンボルを表現する

ヨガには「ムドラー」という技法があります。これは、体で何らかのシンボルを表現することです。

「象徴」の意味

ムドラー(mudra)というのは、サンスクリット語でもともと「印」や「象徴」という意味があります。ヨガのムドラーでは、手足などの身体の一部または全部を使って、何かを象徴するような形(サイン)を描きます。一定のポーズや瞑想と組み合わせて行われる場合が多いです。

神聖な行法

ヨーガの教典によると、ムドラーは、自由自在な力を与えてくれる神聖な行法であるとされます。ムドラーを行うことで、生命のエネルギー(クンダリニー)が動かされ、人間に生まれつき備わっている無限の可能性が引き出されると言われています。

ムドラーの種類

ムドラーの種類は、10~20くらいあると考えられています。

チン・ムドラー

親指と人差し指で「輪」をつくる

多くの人にとって最もなじみ深いムドラーは「チン・ムドラー」でしょう。親指と人差し指で輪をつくるというもので、一般的なヨガレッスンの瞑想でも、よく行われています。手や指でシンボルをつくる「手印」の一つです。

「我」と「神」が結びつく

チン・ムドラーの手の形は、悟りの境地である「梵我一如」(ぼんがいちにょ)を意味しています。すなわち、親指は「ブラフマン(宇宙の根本原理=梵)」を意味し、人差し指は「アートマン(個人の我)」を象徴し、この2つが結びついている状態だということです。
古代インド哲学では、最高我と自我が一致する梵我一如は究極のゴールだとされますが、チン・ムドラーではそのゴールへと向かう感覚を味わうことができるとされます。

残りは3本指は「人間の性質」

チン・ムドラーでは、輪をつくった親指と小指以外の3本の指は、お互いを軽く離して、伸ばします。この3本指は、それぞれ人間の性質を表しています。中指はサットヴァ(明るさ、軽さ)、薬指はラジャス(活発さ)、小指はタマス(暗さ、重さ)を意味し、この3つに「現象世界」が象徴されているとされます。

手のひらは上に

なお、チン・ムドラーでは手のひらは上に向けます。これを下に向けると「ジニャーナ・ムドラー」と呼ばれる別のムドラーになります。

体内のエネルギー循環

左右両方の手でチン・ムドラーをつくったら、左右それぞれのひざの上にやさしく置き、瞑想に入っていきます。チン・ムドラーをすると、エネルギーが体内をスムーズに循環し、体外に出て行かなくなるといわれています。

ちなみに、チン・ムドラーの「チン」には、「思う」「考える」という意味があります。

マハー・ムドラー

もう一つ、一般的でポピュラーなムドラーを紹介します。「マハー・ムドラー」といいます。ハタヨガの教典では「偉大なムドラー」と呼ばれ、「最も悪い5つの煩悩を取り除いてくれる」とされています。

片脚を伸ばして上体を倒す

マハー・ムドラーは簡単に言えば、座った状態で片方の足を斜めに伸ばして、上体を曲げるストレッチです。

やり方

まず、伸ばした片方の足の先を両手で持ちます。鼻からゆっくり長く息を吸い込み、あごを引いて喉を締めます(ジァーランダラ・バンダ)。さらに、肛門を閉じ(ムーラ・バンダ)、次いで腹部を引き上げながら力を入れた状態(ウッディーヤーナ・バンダ)にして、息を止めます。

上体を伸ばした脚の方向に倒して、頭をひざに近づけてその姿勢を保ちます。息苦しくなってきたら上体を起こし、それぞれのバンダを上からゆるめ、口からゆっくり息を吐いてもとの位置で両足をそろえます。左右交互にこれを数回繰り返し行ないます。

こちらの動画で、基本的な流れが紹介されています。→https://www.youtube.com/watch?v=HEw-3LO5sHk

効果

マハー・ムドラーは、腎臓・副腎・脾臓・胃腸のトラブルに効果が期待できると言われています。また、クンダリニー(体内の気エネルギー)の目覚めを助けるとされます。